
他人の家計簿を見ることができるサービス。
これは、”自分と似た収入サイクル、ステータスの人の家計簿”を参考にして
自分の収支を考え直す参考にする、というコンセプトだ。
たしかに、友達や会社の同僚の家計簿を見ることができたら、
自分の節約や運用を見直すきっかけになるだろう。
例えば結婚予定であれば、既に子供がいる先輩の家計簿を見るなどすれば
どれくらいのペースで貯金をすべきかといったことが事前に予測できる。
実際、一部の金融系雑誌の中には、サンプルとして
読者の月次収支を載せ、FP(ファイナンシャルプランナー)が
解説とアドバイスを行うコーナーが設けられているものもある。
しかし、このサービス、日本で提案したところ、
周囲からはアレルギー反応を示されたという。
”人に自分の家計簿を見られるなんて、嫌だって言われたんですよね(笑)。
だったら、ということで、それを匿名、個人仕様にしたのが今のMoneyForwardなんです。”
リリース後の苦悩
試行錯誤の末、2012年12月にはWebブラウザ版、翌月にはiphoneアプリをリリース。
スマートフォンアプリは、Webブラウザ版のビューアアプリの位置付けであった。
しかし、ここでまた、ユーザからのアレルギー反応を受ける。
”アプリ版は、あくまでビューアだったので、Webブラウザ版で事前登録が必要だったんです。
結局、Webブラウザにまずたどり着かないと、使えない仕様になっていた。この時にやっと、インターネットサービスへのトラフィック(流入)元が
PCではなく、モバイルが主流になっているということに気づきました。”
PCを主に使っていたのは、金融系トレーダーやスタートアップ界隈の人間が多かった。
多くの人は、インターネット検索もコミュニケーションも、モバイルで事が足りていた。
”多くの人に使ってもらうには、まず彼らの生活に沿った仕様にすべきだと思いました。”
ネイティブアプリ(アプリ内で全てが完結できる完成度の高いアプリ)の作成が急務であった。
アプリ版は、Webブラウザと同時平行で開発が進められていたが、
itunesへアップするには、審査基準が厳しく、時間もかかり、難航する。
既にiphoneアプリを作成・申請したことのある方には馴染み深いかもしれないが、
申請拒否(リジェクト)も少なくないのがアプリの難しさの一つだ。
そして、リリースの次にスタートアップを待ち受けるのは、サービスのスケールだ。
瀧氏がとった行動は…
なんと、1万件にものぼるカスタマーの問い合わせ対応だった。
ペルソナは誰か
カスタマー対応を市場調査と捉え、瀧氏はあることに気がついた。
人は、”面倒”なものを使わない。
サービスの分岐点は、それが使いやすいかどうかだと。
そして、仮想顧客、通称ペルソナについて考えた。
お金の管理が面倒だと感じて、PFMを欲しがるユーザとは、
一体、どんな人たちなのか。
MoneyForwardでは、こんなペルソナを設定した。
37歳、男性、既婚、子持ち。
35歳、男性、独身。
そう、同社CEOの辻氏と、CTOの浅野氏だ。
”女性のペルソナは設定しませんでした。
Webやアカウントアグリゲーションを使い倒すのは男性と思っていた。実際、女性ユーザは増えませんでした。
初期のMoneyForwardメンバーは8名で、全て男性。
開発側に女性がいないんじゃ、そりゃ使われませんよね(笑)”
女性にも認知してもらおうと打った施策が、チュートリアル徳井氏を起用したTVCMであった。
いかにマネタイズを行うか
趣味ではなく、会社としてサービスを立ち上げ、社員を雇う場合、
事業の全ての根本といっても過言ではないのが
どうやってマネタイズを行うかということだ。
MoneyForwardは1年8ヶ月で100万ユーザを獲得。
同社が採ったのは、Evernote等が用いるフリーミアム戦略であった。
最初は無料で、サービスをグレードアップするために課金するビジネスモデルだ。
”課金した途端に離れるユーザもいる一方で、
実はプレミアム(課金型)サービスというのは、
ヘビーユーザへ安心感を与えるためにも重要だったりするんです。ずっと無料のアプリへは、様々なユーザが流入してくる。
特に金融系サービスでは、クオリティを保つことは至上命題です。”
人は、自身が作成したデータやリストに強い愛着を覚えるという。
itunesなどで作成できる、好きな楽曲を集めたプレイリストなどもそうだろう。
一方で、音楽系サービスなどでは、課金と同時にユーザが使用をやめるケースもある。
しかし、MoneyForwardの強みは”Fintech"であることだった。
人の、金銭データについてのこだわりは、ほかのサービスとは違っていた。
”例えば、メガバンクが提供するオンライン通帳サービスでは、
自身の取引履歴を見ることができるのは、最長でも2年程度となっています。ここにポイントがある。
お金を払ってでも、それ以上の履歴を見たい、残したいというニーズが
マーケットに存在するんです。”
フリーミアムモデルでマネタイズを行い、安定的なユーザ数も獲得。
基本を押さえたMoneyForwardが次に手がけたのは、
なんと会計サービスであった。
PFMなのに、どうして突然会計サービスを始めたんですかって、聞かれました(笑)。
突発的に見えるこの施策。
実は、カスタマー対応から見えてきた、”とある顧客層”のために始まったー…
その3へ続く